ウイールマン

秋田  

2016年07月02日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

若き頃、結婚なんて二人だけで決めればいいと、思っていた。
相手の家族と結婚するのではないし。
ましてや、相手の家族と一緒に住む気など毛頭ない。

だが日本のしきたりでは、そうもいかないらしい。

かなり駄々をこね、政治家もどき、後先の事など考えず。
守れもしない公約をところかまわず。

これも悲願達成の為。

意気揚々とアメリカに帰る。 
これで何とか結婚できると。あの素晴らしい日本女性が、アメリカに来てくれる。

天にも昇る気持ちとは、この事だ。

アメリカに帰り、暫くすると珍しく国際電話が。 

いやな予感。

母親からの電話だ。
何とまた日本に帰ってこいとの事。

彼女の父親の承諾を、得なくちゃいけないとの事。

結婚なんて二人だけで決めればいい。
それですべては落着だと思っていた。

ややこましいしきたりが、嫌で日本を飛び出したのに。

それに財布は空っぽだ。飛行機代など出せるわけない。

しかし、、、 もしノーとでもいえば、この結婚は消えて失せる。

仕方なく“行く“と大決心をする。こうなったらもう“イチかバチか”だ。
何時までに帰って来い、という母親の命令に従い、飛行機に乗る。

ロスアンジェルスから、羽田までの直行便はなし。
格安チケットゆえ、なんとハワイ経由。
勿論経由なので、ハワイでのんびりしてる事などできない。

いつものように仕事をし、夕方遅くロスを飛び立ちハワイを目指す。
飛行時間は約6時間。

6時間過ぎると、オアフ島の綺麗な夜景が見え始めた。
ハワイは今深夜。

ロビーにいると遠くから、憂いあるハワイアンミュウジックが聞こえてくる。
遠い思いにふけってられない。

今はただ羽田を目指す。

3時間後、ホノルルエアーポートを飛行機は飛び立つ。

ホノルルから日本までの飛行時間は8時間程。

8時間後飛行機は高度を下げ始める。
日本は朝を迎えてる。
ロスを出発してからかれこれ17時間。

朝日の中、やっと羽田に着く。
阿佐ヶ谷の実家に帰り、少しは旅の疲れをとれるだろう。

これから起きる事への虫の知らせか、今回は一睡も出来なかった。
ゲイトを通り、ロビーに出る。 もうへとへとだ。

ロビーには見慣れた顔があった。 
まず最初に探したのは、本命の彼女。

白い帽子をかぶり、花模様の入った白のワンピース。 可憐な日本女性。
彼女はにこやかに、微笑んでいる。 
また会えて、とても嬉しかった。

そしてうちの父親もいた。その傍にあまり見慣れぬ、彼女の義理の兄。
ロビーを出、外で車が待っていると。

今回は気を利かし、車で迎えに来てくれたのだ、、、

所が何と   “これから秋田に行く”  と有無を言わせず車に乗せられる。

“彼女と一緒なら何処にでも行く。
    しかしまず家に帰り、ちょっと一休みさせてくれ”

と言ったところで、相手はいやおうなし。
誘拐事件は、このようにして起きるのだろう。 

無理やり車に押し込まれ、何処かに連れ去られる。
しかし連れ去る相手が自分の父親となると、これは家庭騒動。

話を聞くと、本来は電車で行くはずだったが、お盆のため切符は取れず。
仕方なく車で行くという。

そしてその時、地獄からの声が、

“今日は大安の日。今日中に結納を済ませねばならない。
秋田までには、今日中に着かないと結納が台無しになる”

結納とやらの、そんな話は何も聞いてはいないし、その結納の意味もよくわからない。

適当な日に秋田に行き、彼女の父親の承諾を得るだけだと、気軽に思っていた。
彼女の父親を納得させる、作戦は練っていた。
例の公約を使えばいいと。

明日は仏滅だとか、父親がブツブツ言いだす。

日本の冠婚葬祭とは、現代っ子にはよくわからない。

そのとき横に座った彼女が “よく来てくれたわね。嬉しいわ”と。
その一言で、もうどうでも良くなった。

この際腹を決め、捕虜のようになされるまま、、
結婚するのは、大変なことだと初めて悟る。

車は東京を離れ、北へ北へと向かう。高速もない時代、ただ国道をひたすら。

その後我父親が、彼女の義理の兄の運転に、文句をつけ始める。
義理の兄は、はやりのペーパドライバー。
運転などあまりしたことがないようだ。

危なくて見ていられない。見かねて“俺が運転するよ”と。
国際免許など取ってはこなかったが、見るに見かねて運転を変わる。

   “無免許運転“

そして、、、、もう何日間寝ていないだろう、、、、、

しかし今は泣き言を言ってはいられない。
彼女にカッコイイ所を、見せなくちゃと運転を変わる。

夜になったが、まだ秋田は遠い。
後ろの席に座る彼女の姿を、垣間見ながら北に向かう。

深夜に近くなって、やっと秋田の街の日が見えだす。
もうすぐ仏滅の日になってしまう。

二ツ井の“部落”が見えだしたとたん、父親が車を止めろと怒り出す。
何と田んぼの中で着替えをするそうだ。
ネクタイを着け、スーツに着替えるのだと。

ボーっとして、皆がスイーツに着替えるのを見ていたら、父親曰く
“おい、何をしてるのだ。お前もちゃんと着替えろ”
一体何かおきてるのか、一瞬戸惑うが、ここは親の言うことを聞くしかない。

深夜遅く田んぼの中。

裸で親子けんかなど、前代未聞の騒ぎだ。
それも彼女の実家のそばで。

こっちはそんな事があるとは知らず、何の準備もしてはいない。

おもむろにスーツケースをトランクから取り出すが、スーツはどこのしまったやら。
月明りの中、必死にスーツを探す。

やっと彼女の実家に、たどり着く。

父親とその一族は、深夜にもかかわらず、じーつと来るのを待っていたようだ。

スーツを着、穿いてるのは運動靴。スーツに合う靴は見つからなかった。
靴を脱ぎ、おもむろに座敷に招かれる。

彼女の父親は座敷の奥に座ってる。
一体これから何が始まるのだ、、、、

我父親が何か言い始める。

“本日はお日柄もよく、、、、”もう仏滅になってるのに、、、
この際そんな事はどうでもいいようだ。

歌舞伎役者のような台詞が響きわたる。

そしてあとはありがとうございましたと、儀式は終わった。

何が何だか分からない。
ただ父親のやるよう、ひたすら頭を下げる。
何かが終わったようだ。

深夜にもかかわらず、親戚一同の宴会とやらが始まるそうな。

ロスアンジェルスの飛行場を飛び立って、羽田に着くまで約17時間。

羽田から二ツ井まで車で18時間の道のり。もう35時間以上も寝ていない。

そしてこれでやっと終わった。これで寝れると思いきや、、、
これから宴会が始まるそうな。そんなことは彼女の家族にまかしておけばいい。

もう休ませてもらう、、、二日間も寝てないし、ちゃんとやるべき事はしたのだから。

彼女にそつと“何処に寝かせてもらえる”と聞いたとき思いもよらぬ返事が、、、

これからの人生を占うような、、、
“あなた、頑張って。  みんなに酒のお酌をし、お相手をしなくちゃいけませんよ”と。

東京という大都会に生まれ、大都会に育ち、古臭い日本の格式などを嫌い、アメリカに行った。

何か違った世界で、起きている出来事なのだ。



あれからどのくらい時間がたったのだろう。 秋田の夜ももう空け始めるころだ。
やっと床に就く。
目を閉じる、これまでの事が走馬灯のように駆け巡る。

今まで好き勝手、世間に背を向けて、自由気ままに生きてきた。
人並みの家庭を築けることなど、とても思ってもいなかった。

故郷日本、背を向けていた人間を、皆で暖かく迎えてくれた。

これで人並みの生き方が出来る。
 
彼女とともに暖かい家庭が築ける。

日本の暖かい体温を感じた。



ケンさんが運転する車は、49年前、深夜月明りの中、スーツに着替えた田んぼを通る。
49年前と少しも変わらっていない。

この場所は、これからも変わる事はないだろう。



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