ウイールマン

もう一つの故郷 

2016年07月11日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

父親は長野塩尻の町はずれ、小さな農村で生まれた。

その家の主である祖父は、若い時アメリカにあるシアトルに行っていた。

当時この村の若い人達は、狭い日本に飽き足らず 
アメリカや中国を開拓しに渡ったという。

しかし祖父はアメリカで病気になり、帰国後わずかで他界した。

その塩尻の家で、母親一人で育てられたという。

幼少の時から両親に連れられて、よく遊びにいつた。
夏になると川で泳いだり、魚を取ったり。 
冬は近くの池でスケートをしたり、雪であそんだり。

東京で生まれ、東京で育ったが、ここが第二の故郷に思えた。
自分のルーツがある場所。

あの頃は井戸水をくみ上げ、炊飯はまきを燃やしていた。
朝起きると、まきを燃やす臭い。大きなおかまで、お米を焚いていた。

おかずは、山で取れた山菜とか、畑からの野菜。
夜になると、風呂はまきで沸かす。
まきを燃やす、こおばしい匂いを思い出す。

夜夢の中で、遠くから蒸気機関車の走る音、汽笛が聞こえる。

懐かし蒸気機関車。

新宿発、松本行。
トンネルにちかずくと、汽笛をならす。窓を閉めろのサインだ。
窓を開けっぱなしにしていたら、大変だ。 煙が客車の中に入ってくる。
客車の中が煙だらけ。 暫くの間は闇の中。

トンネルが過ぎると、窓を開け外の空気を胸いっぱい。
自然や木々の、清々しい匂いがする。

その長野の家も、今は誰も住んではいない。なんと築約200年程だそうだ。
手を入れ、リフォームし、住み心地は悪くはない。

ガスも電気も水道もあるし、湯沸かしまでついている。
昔とは大違い。

先祖代々、それと父親と母親が、眠っているお墓がここにある。
必ずここを訪れる。

朝、新宿を出発。
昔汽車でよく通ったが、今は近代化した超特急“ス−パーあずさ”

汽車では半日だったのに、今はあっというまにつく。

お墓に行く。 

若かった頃した、親不孝を詫びる。今だって親不孝しているのかもしれない。
此処にはいつも来られない。

久しぶり両親に。 

いい思い出、悪い思い出が駆け巡る。

やはり母親は可哀想だった。
大恋愛して結婚したのに、その後父親は好き勝手。

母親はいつもじーっと耐えていた。
そんな母親を、幼少のころから見ていた。

あのしたたかな親父め。 

散々苦労かけ、あげくの果てにおふくろを、こんな所にまで付き合わせて。

しかし今は仲良く一緒に、このお墓にはいつている。
これも又人生。

彼女との結納が無事すみ、アメリカにかえる前、
母親が二人をここに連れてきた。

色々な話をしてくれた。
そして結婚したら、お嫁さんを不幸にしてはいけない。
大切にしなくちゃいけない。

自分が通った同じ道を、決して歩かしてはいけないと。



次の日、塩尻から松本に。

塩尻の駅のホームで電車を待つ。
田舎の駅の雰囲気と、何か不似合な人がいる。

若い女性がファシヨナブルな制服をきてる。 フライトアテンダントみたいな。
そしてパイロットが持つようなカバン。

一体彼女は、、、

電車が来ると、なんと運転室に入っていく。
この人が、この電車を運転するのだ

“可憐な若き女性が、こんなゴツイ電車を動かし始める”

何か他の世界に起きてる事のよう。
そしてその女性が運転する電車は、駅に止まる。 

“村井駅”

そのとき横にいた姉が教えてくれた。

昔母親が女学生の頃、この村井駅から松本まで通学していた。
父親も同じ汽車で。

ませた高校生の父親が、母親を汽車の中で見つけ、“付文”をしたという。

それがあの二人の始まり。

今、この同じ場所で、可憐な若い女性が、
このゴツイ電車を、元気いっぱい動かしている。

横顔が何故か写真で見た、母親の若い時によく似ている。

彼女が運転する電車は、あの時と同じよう、
また松本に向かい始める。



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