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パトラッシュが駆ける!

女優さん 

2016年08月27日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

カーテンコールを終えた、出演者の皆さんが、客席内を通り抜け、ロビーに出た。
観客を見送るのであろう。
観客への、一つのサービスというわけだろう。
紅(こう)さんの姿が見えた。
白い絽の着物を、きりっと着こなし、一際目立っている。

私の顔を見るや、つかつかと寄って来て、手を差し出した。
「今日は、ありがとうございました」
笑うと、その目が一段と細くなる。
舞台でもそうだった。
やくざの親分の情婦に扮し、時に大の男を恫喝し、
時に媚びを含むなど、その顔は千変万化した。
特にその目だ。
口よりも、はるかに雄弁に、芝居をしていた。

「素晴らしかった」
「ありがとうございます」
「こんなに楽しい芝居だと、思わなかった」
咄嗟であり、気の利いたことは言えない。
しかし、これでいい。
芝居の興奮、冷めやらぬ中であり、今は大まかに、感想を述べるまでだ。
そして客が大勢居る。
私だけが、紅さんを独占してもいけない。

詳しくはまた、銀座の「しも田」で、話せばいい。
差しつ差されつ、その時こそ、楽しい芝居談義になるはずだ。
じゃあと別れを告げ、ロビーを後にした。
私は、いざとなると、意気地がない。
今夜は、酒に酔って、いなかったこともある。
どさくさまぎれに、女優さんをハグしちまえばよかったとは、後から思ったことである。

 * * *

そもそもは、銀座の風流寄席から始まった。
先月のことだった。
四天王寺紅さんが宴席で、芝居のチラシを配った。
私が出演します。
どうぞいらして下さい。
ということだ。
彼女とは、まんざら縁がないわけでもない。
と言っても、たまたま宴席で、近くに座り、酒を注いだり、注がれたりしたくらいだが。

「行きましょう」
私はその場で、快諾をし、入場料を払った。
前売りだから、四千円。
気楽な散財だ。
仮に芝居が外れであっても、一杯飲んだと思えばいい。

「なにわ役者祭」とチラシに書いてある。
男優女優、十数人の顔が、ずらり並んでいて、その顔が、皆笑っている。
だから、深刻な芝居ではないだろう。

私は人間が安直に出来ていて、そもそも、高尚な芝居には向いていない。
例えば新劇。
去年、チェーホフの「桜の園」を見て、うんざりした覚えがある。
ロシア文学は、総じて嫌いだ。
ドストエフスキーもトルストイも、読みたいと思わない。
そういう下賤の人間なのである。

 * * *

夕方の下北沢駅は、人でごった返していた。
驚くなかれ、そのほとんどが若者だ。
下北沢、略してシモキタは、今や小劇場の町、演劇の町と化しているらしい。
さりとて、駅に群がる全員が、劇場目指しているわけでもなかろう。
私には、若者の集まっている理由が、わからない。

渋谷、原宿と同じく、若者文化の一翼を担う、そんな町なのかもしれない。
ちなみに、ここは世田谷区。
私の住む杉並とは、隣接する区であり、何かにつけ、比較されることが多い。
言葉を替えれば、ライバルということも出来る。
残念だが、我が方には、これだけ若者の蝟集する町はない。

駅を出た、すぐ目の前に「駅前劇場」の看板が見えた。
ビルがあり、二階がファミリーレストランで、その上、三階にある。
いかにも雑居感があり、いかにも小劇場らしい。
そして、この雑居感こそが、ここシモキタの特性であるのかもしれない。

劇場とは名ばかり、芝居小屋のようなものだ。
天井も壁も、黒く塗られている。
照明の器具が、無造作に吊るされている。
客席は、ざっと百数十。
その座席たるや、折り畳みの椅子であって、これをただ並べただけ。
いかにも簡素であり、これを実質本位ということも出来る。
芝居そのものを楽しむなら、華美な装飾など、本来要らないのだから。

開演時間が迫るや、この椅子席に、ほとんど空きがなくなった。
意外にも、若い女性が多いけれど、その理由が私にはわからない。
ただ一つ、彼女らの金銭感覚は、シビアであるはずだから、
価値のないものに、お金を投じるはずがない。
また、劇団員の繋がりで、これだけの客は集められまい。
満席となるには、理由があるはずだ。

ストーリーは他愛もなかった。
大阪は通天閣に近い、新世界における、土地の立ち退き問題に、端を発している。
立ち退きを迫る地主。
その意向を受けた、やくざの一団。
立ち退くまいとする、芝居小屋「壽座」の主。
そして公演を行う、座長と劇団員の面々。
そこに「実は……」があり、と言うより「実は」だらけであり、
観客の意表を突きまくっていた。
劇団員もやくざも、一癖二癖ある人物ばかりであり、それぞれに存在感がある。

面白かった。
随所に笑いがあった。
殺陣には力がこもり、動きが軽やかであった。
見事にトンボを切った、若者も居た。
彼は、歌舞伎座でもきっと、立派に通用するだろう。

座長は新島愛一郎さん。
それを盛り立て、老若十数人の男女が、それぞれ達者な芸を見せている。
役にぴったりのキャラクターを、よくぞ集めて来たという感が強い。
この辺、野球チームを連想させる。
ピッチャーだけで、野球は出来ない。
キャッチャー、野手、それぞれに適材適所ということが求められる。
それをこのチームは、見事なまでに、まとめ上げている。

 * * *

いや驚いた。
驚かされてしまった。
幕が降りて、時計を見たら、九時になっている。
二時間、笑いっ放しだったことになる。
私の観劇歴に、新たな一ページが加わった。

次に紅さん会うのが、にわかに楽しみとなっている。
「和服でいらっしゃいよ」
言ってやりたいのだが、メールアドレスを聞いていない。
洋装でもいい。
酔った勢いで、今度こそ、ハグをと思うけれど、果たして出来るであろうか。



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宿世の因縁かも

パトラッシュさん

彩々さん、
私は、人が好きなのです。
そして興味があるのです。
これはという人に出会うと、近付いて、確かめたくなるのです。
(もちろん、彩々さんも、その一人です)
変な奴と、関わりになってしまい、お気の毒ですが、これも何かの縁と、お諦め下さい。

ところで、「ロング・トレイル」はご覧になりましたか?
私は、先日見てまいりました。
その結果を、ギャラリーに載せてありますので、お暇がありましたら、ご覧ください。

2016/08/28 07:55:43

気になる存在になっていく

彩々さん

パトさんのBlogはシニア・ナビで発行される
まさしくエッセイ版ですね!

知らない場所や人、旅の醍醐味などなど、パトさんを
通して送り出される言葉、文章は一つ一つ心に染みます。

私も、行ってみたい…会ってみたい…同席したいと
思わされること、度々です。
ホント、シシーさんが書かれているように
>楽しんでいらっしゃいますね!

2016/08/28 05:15:25

何処へでも行きます

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
そうなのです。
人とのつながりが、幾何級数的に(ちょっとオーバーかな)
広がりつつあります。
フルートの演奏会には、もう参加すると確約してしまっております。
私は、元々が野次馬であり、振り返ってみると、ずっとこんな人生を、送って来たような気がします。

シシーマニアさんの演奏会が、もしも開かれるなら、こんなうれしいことはありません。
私は、下北沢であろうと、下北半島であろうと、必ず行くでありましょう。

実を言えば、私が主催したいくらいであります。(笑)
そう、シニアナビのオフ会としてです。

2016/08/27 19:23:44

女優さんは注目の的

パトラッシュさん

沙希さん、
シモキタについて、お詳しいのですね。
(私は、シモネタなら詳しいのですが)
興味深い町でした。
但し、わざわざ訪れるまでのこともないかな……と。

紅さん、
確かに銀座では、黒いレースの手袋をしていました。
あの場には、どうかな?とも思ったのですが、そこは女優さんかだから……とも思っていました。
次回、どんな格好で現れるか……
少々興味深くもあります。

2016/08/27 19:16:07

パトラッシュさん

吾喰楽さん、
予想が良い方に外れ、大変に面白い芝居でした。
演劇にも、こういう世界があるのだと、認識を新たにした次第です。

化粧については、私はわかりませんでした。
私には、貴兄ほどの鑑識眼がないようです。
和服もまた、単に「白い絽の和服」としか言えず、もどかしい限りです。

2016/08/27 19:10:25

楽しんでいらっしゃいますね!

シシーマニアさん

風流寄席も、舞台と客席の垣根が低い、素敵な場のようですし。
更にそこからどんどん広がっていってるご様子で。
吾喰楽さんからのお話では、メンバーの方のフルート演奏会も、秋にはあるとか・・。

実は、残念ながら事情があって成立しませんでしたが、私も昨年秋、下北沢の小ぶりなホールで、演奏会を開く予定でした。
これを近年中には実現化させるのも、私のバケツリストの一つです。

2016/08/27 11:48:42

下北沢

さん

この街は、何度も訪れました。
若い頃です。
当時から、劇場もあったし、下北マンボ(細身のズボン)などというファッションの発信地でもありました。
若者が多いせいか?物価も驚くほど安かったです。

私は紅さんには一度しかお目にかかっていませんが、飲食時も黒いレースの手袋をしたままだったのが印象に残っています。
個性的な方でした。

2016/08/27 09:34:59

化粧

吾喰楽さん

面白い芝居だったようで、何よりです。

一週間後の風流寄席、紅さんは和服姿でしたね。
貴兄の願いが、通じたようです。
私は、一瞬、誰だか解りませんでした。
和服が理由ではありません。
日頃は、厚化粧というより、舞台化粧に近いですよね。
この日は、和装に相応しい薄化粧でした。

そういえば、蓮舫さん似のフルート奏者さんも、和装でした。
彼女は、紅さん以上に薄化粧でした。

それにしても、女性は化粧次第で、文字通り化けることを再認識しました。

2016/08/27 09:25:41

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