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パトラッシュが駆ける!

私が死んだ? 

2016年10月15日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

なるべく外に出よう。
そして、人通りの多い道を歩こう。
住宅街よりは、商店街がいい。
胸を張り、大股に歩こう。
顔見知りに会う度に、明瞭な挨拶を交わそう。
ということを、しばらく、励行しようと思っている。

私は、残り少ない人生を、世間に煩わされず、
ひっそり静かに、暮らしたいと思っていた。
これを隠棲願望と言ってもいい。
世俗から遊離した、仙人のような生活への、憧れがあった。
しかし、無理だったのかもしれない。
私は所詮、俗物であり、容易に世間から、離れられないことがわかった。

それは、数日前のことであった。
まさか、この私が、殺されてしまうとは、思わなかった。

 * * *

「あー、お元気でしたかー、あーよかったー」
受話器から、堰を切ったように、声が響いた。
その声を、何処かで、聞いたような気がする。
「………」
「よかったー、ご無事でー」
「どちらさんで?」
「Mです」
「おや、久しぶりだね」
「いやぁ、ちょっと小耳にはさんだもんですから。
パトさんが亡くなったって」
「えぇ……」
「いやー、よかったー」
「ぴんぴんしてますよ、私は」
「いやー、よかった」

まったく、Mの話は、何時もながら、取りとめない。
彼の悪い癖だ。
主語を省略し、物事を語るから、いけない。
そして、彼の思考回路たるや、世の常の人と、大幅に違うようだ。
時に、突拍子もないことを言う。
「アメリカの凋落は、とっくに始まっています」
なんてことを、真面目くさった顔で言う。

「何ですか、いったい?」
「死んだという噂を、聞いたもんですから」
「死因は?」
「それは不明です」
「噂は、何処で?」
「今度、説明に上がります。今日はともかく、
無事の確認だけで……」
まったくもって、慌ただしい人だ。
「あーよかったー」を繰り返しながら、
訳わからないままに、電話は切れた。

その時、私は、ライバルのKと碁を打っていた。
盤面は、険しい局面に入っていた。
のるかそるかの、せめぎ合いをやっていた。

水を差された、とはこのことだ。
電話が鳴れば、対局中でも出ないわけには行かない。
多くは、ろくでもない、営業や勧誘の電話であり、
その際は、物も言わず、ガチャンと切るようにしている。

「死んだって?……この私が?……」
縁起でもない。
碁盤に戻った私は、事態を飲み込みかねている。
集中力を欠いている。
それ見ろ、私の大石が、敵の包囲網を脱し切れず、
死んでしまったではないか。
Mのやつ、この負けを、どうしてくれるのか。

数日後、ぬけぬけと、そのMが来た。
「あけぼの通りで、長く商売をやり、数年前に、
リタイアした人って言うんですよ」
「……」
「それが最近、死んだって」
「……」
「これはてっきり、パトさんだと思ったですよ」
「誰がそんなことを?」
「中央会館に集まっていた時です。名前は知らないけど、
六十くらいの白髪の人です」
「……」
「多分、人違いなんでしょうね。私がパトさんだと、
思い込んだまでです」

確かにここは、あけぼの通りだ。
急いで商店街の、同世代を、思い浮かべてみた。
長く商売をやって、近年、店を閉じた。
そんなもの、珍しくもない。
シャッターの閉まっている店を、あれこれ思い浮かべてみた。
しかし、いない。
皆、生きている。
その証拠に、葬式が出ていない。
いや、もしかすると、密葬だったのか……
今時は、これがあるから困る。

本当に死んだ者は、誰か。
固有名詞を上げず、噂をまき散らしたのは、誰か。
大いに気になる。

しかし、とりあえずは、私の名誉の回復だ。
噂を根絶しなければ、おちおち隠遁生活なんか、
送って居られない。
それには、実物を展示するのが一番だ。
それでせっせと、外に出ている。
この、見栄えのしない顔を、世間にさらしている。



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驚かすのも……

パトラッシュさん

喜美さん、
三か月くらい、鳴りを潜めていて、突如現れるのも、
一つの手ですね。
「どっこい、死にやしませんよー」と、笑いながら。

確かに、心配されるうちが、華ですね。

2016/10/16 08:59:51

同じようなもの

喜美さん

私も今日お天気もいいし
と思い美容院に行ってきました
先生がおげんきでした? 元気で悪うござんした気分 最近余り外出もしないので少し位髪の毛が伸びようと
其のままにしていたら3か月位行かなかったらしい 私はケチです
タクシー往復パーマ代もかかるし
気にもしていませんでした
皆で心配していたそうです(歳ですから死んだかしらと噂していたと思う)
心配されるうちが華でしょうか

2016/10/15 15:58:42

とかくこの世は、喧しいものでして

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
「知らぬは当人ばかりなり」になるところでした。
電話の後は、Mを罵っておりました。
「なんて、そそっかしい奴だ」と。
落ち着いて考えたら、知らせてくれたことに、感謝すべきなのでしょう。

幸いに、他に驚かれた例は、ありませんでした。

ちなみに、芸能人などでは、よくあることのようで、動静が知れないとなると、まことしやかに、
死亡説が流れるとか。
かの高倉健なんぞ、何度死なされたか、わからないそうです。

2016/10/15 13:13:43

一人歩きしそうな話題

シシーマニアさん

誰かが亡くなった、という話は記憶にしっかり刻まれますが、その前後の話がうやむやで、というのが老人の常だったりしますね。

私も、確かに亡くなったお話を聞いて、その後、結構落ち込んでいたのに、話してくれた本人に最近その話をしたら、「私は、知らないけど・・」

そんな話、確かめようもなく・・。

件の、Mさんのように、気楽に直接確かめてくれる人が居て、師匠よかったですね。


知らないうちに、一人歩きしそうな話題ですもの・・。

2016/10/15 11:24:36

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