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パトラッシュが駆ける!

愚か者です 

2019年06月08日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

「これ愚妻です」と言って、妻を紹介する光景が昔は見られた。
今もあるらしい。
「失礼しちゃうわ。人のことを、何て思ってるの……」
その場は笑ってやり過ごしたものの、後で夫に対し、
憤懣をあらわにした女性を知っている。
だから私は、その言葉を使わないようにしている。

と言いながら、似たような失敗を、やらかしたことがある。
ある文中において、何の気なしに「不美人の妻が」と書いてしまった。
普段、私の文を読まない妻が、不運なことに、
たまたまこれを目にしてしまった。
そして怒った。
「何よ!不美人って」
「謙遜だって、謙遜」
「あーたの謙遜のために、何で私が不美人にされちゃうの?」
「例えば、手土産を差し出す時に
『これ、つまらないものですが』って言うだろ。あれと同じ」
「私は人間です。菓子折と一緒にしないで下さい」
「あのねえ、本当にブスだと思っていたら、
不美人なんてことは、逆に言わないんだ。
そこそこ美しいからこそ、謙遜が成り立つってぇもんなんだ」
苦しい弁明をし、慰撫にこれ努めたけれど、
彼女の怒りは解けなかった。

私の妻は、正直を絵に描いたような人である。
それを端的に表す言葉があるのだが、
使わない方が良いだろう。
また、何を言われるか、知れたものじゃない。

 * * *

「愚」のつく言葉がたくさんある。
それが自身に関わる場合は、概ね謙遜語となる。
愚生、愚才、愚策、愚見、愚稿、愚詠、愚案、愚慮……
人は謙遜することが、好きなのであろう、
もう、いくらでもある。

私の最も好きな「愚」は、中国の寓話に出て来る「愚公」
齢九十にして、一念発起し、通行の邪魔になる、
山を削り、移したとされている。
ブルドーザーなんぞ、ない時代である。
箕(み)でもって、少しずつ土を運び、
人々がこれを無理だと嗤う中、遂にやり遂げたとされている。
その一轍に、憧れはするけれど、怠け者の私には、多分無理だろう。

もう一つ、好きな「愚」があって、
これは一人称代名詞の「愚僧」……
これを一度、言ってみたい。
笠智衆演じたところの、柴又帝釈天の御前様が理想だが、
これも多分、無理だろう。
品格以前の問題として、私には、消し難い俗臭がある。
仮に、借り物の僧衣を纏い、門前に立ったところで、
すぐにニセ坊主と知れるであろう。

愚息、愚女、愚弟、愚兄など、親族に付ける場合もある。
概ね二親等以内だ。
愚従兄、愚叔父、愚叔母なんて言葉はない。
父母もさすがにあるまい。
と思っていたら、実はあった。
それを私は、一つの事件から知ることになった。

親が、その行く末を案じ、幼い我が子を手にかける。
そんな事件が、昔から、なかったわけではない。
今は、あらゆることが高齢化している。
殺人事件とて同じ。
人生最終盤に差し掛かった親が、今を盛りの、壮年の息子を殺す。
思い余って……であろう。
そこに相当の事情が、あったのであろう。
老親の苦衷は、察するに余りある。

 * * *

「愚母を殴り倒した時の、快感たるやなかった」
殺された四十四歳の男が、語ったとされている。
彼が、中学生の頃であるらしい。
そりゃ、めきめきと体力の増す時期だ。
腕力だって、強くなる。
女を殴れば、それは相手は倒れもするだろう。

しかし情けない。
母親を殴って、いったい、どうしようというのだ。
それをまた、自慢げに語る。
彼の精神構造たるや、幼児のそれでしかない。

生意気に「愚母」なんて言葉を使ったけれど、彼はそれが、
謙遜語であることにまで、思いが至らなかったのであろう。
両者の間に、慈しみの心があって、初めて「愚母」と呼び得る。
だからこの場合、正しくは「賢母を殴った」でなければいけない。
殴る価値がある相手、それは賢者であり、富者であり、権威ある者だ。
例え、粗暴な方法によってでも、賢者を超え、その上に立つ。
それでこそ、彼の優越感は満たされる。
愚者は、か弱き幼児などと共に、本来、殴る価値などない。
その価値なき行為を自慢してどうなる。

彼の国語力たるや、その程度と知るべきだ。
国語ばかりでない。
精神そのものが幼い。
彼が、この世に適合して行くことは、難しかったと思われる。

 * * *

「愚妻」に対し「愚夫」もあるらしい。
妻が夫を紹介する際の、謙称とされている。
幸いに、私はこの言葉により、誰かに紹介されたことはない。
しかし仮に、妻により、この言葉を用いられたとしても、
私は異議を唱えないであろう。
甘んじて「愚夫」を受け入れ、私は、何を言われても、
へらへらと笑っているつもりだ。
「大賢は大愚に似たり」と言うではないか。
私は、心を広やかに、この線で行こうと思っている。



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そうでしょ、そうでしょ

パトラッシュさん

喜美さん、
旦那さんは、喜美さんに首っ丈だったのです。
その裏返しで、外では強がって見せていたのです。
男なんて、実は単純なのです。
女性には敵いません。

2019/06/08 18:20:49

愚妻

喜美さん

良いじゃありませんか
私は凄い アイツはですよ
女の人に使う言葉ですか
そんな事言う人に限って私の前では
何も言えないだろうと。そう何も言えませんでした

2019/06/08 16:12:41

日本男児のややこしさ

パトラッシュさん

まはろさん、
私もハワイに長く住めば、素直になれるかもしれません。
思っていても言えない。
この性(さが)は、一朝一夕には、直らないと思われます。

次に外国人さんに会う時は、おっしゃるように、謙遜しないことにします。

2019/06/08 16:02:53

困った民族です

パトラッシュさん

シシーマニアさん、
外国にはそもそも「愚妻」なんて言葉は、ないのでしょうね。
それどころか、私の列挙した「愚」の付く言葉の多さに、仰天することでしょう。

旦那さんのことも、もう故人ですから、心おきなく褒められますね。
good husband でしたと言って。
日本人は、伴侶を褒めるのが、照れ臭いのです。

2019/06/08 15:57:23

謙遜

まはろさん

パトラッシュさん

何時も楽しく読ませて頂いてます
有難うございます

私はアメリカには謙遜という言葉は無いと思っています
奥さんを紹介する時もMy beautiful wife と言ってます
これ美味しいからどうぞとか色々・・・

昔謙遜したら本当にされ困ったことがありました
それから友達とも謙遜したら駄目よと言ってます

どうぞアメリカにいらした時は絶対に謙遜しないで下さいね (笑)
長くアメリカに住んで色々習いました
でもやっぱりそれに慣れない私で困っています

2019/06/08 11:36:45

私も愚か者で・・。

シシーマニアさん

海外で、主人の話をするときに、つい謙遜のつもりで、言ってしまいます。

一番多いのが「無口なので、つまんないのです」

でも、外国語で謙遜をする、等という繊細な行為は誤解の元ですね。

大体、嫌な顔をされます。単に、愚痴を言っている、と受け取られるようです。

心の中では、(でも、楽しい事はたくさんさせてくれたんです)と思って居るのですけれど、そんなことまで、相手が慮ってくれる訳、ありませんよね。

2019/06/08 10:43:48

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