goofpapaブログ

出島(いずしま)その3 

2017年03月12日 ナビトモブログ記事
テーマ:テーマ無し

(前回の続き)

数年後、私は今の妻と出会い、ありきたりの付き合いを経て、成り行きでごく普通に結婚した。もうお互い恋に陥る年齢でもなく、妥協の結果だったと思われる。それは案外、以後の人生に大きく作用することになるのだが、この時点では思いもよらなかった。

子供ができてからは、仕事に追われながら家庭を維持していくのに懸命で、毎日に忙殺されながら、人並みの山あり谷あり、喜怒哀楽に彩られた人生を歩んできた。

子供達が成人し終わった頃のある日、突然、あの好きだった人が夢に現れたのだ。明け方のまどろみ時間である。

数日前、知人からあの人もまた意中の人と結婚せず、一人で暮らしていたことを聞き、私の胸にちょっとさざ波が立った、そのせいかもしれなかった。

その人は夢の中で、あの頃と同じように美しい晴れやかな笑顔で私に向かって何か語りかけた。

それから、たびたび夢の中にその人が現れるようになった。全然記憶にもない場面で私と関わったいろいろな出来事。ちょっとした仕草、あの眼差し、私に呼びかけ、しきりに話しかけている。私はうっとりと溶けそうな心地で聞き入っている。一緒にいることの何という幸福感。

目が覚めてからも、もっと夢を見ていたい気持ち、過ぎ去った日々への懐かしい思い。甘い陶酔感に包まれて起き上がれない。

もちろん私の潜在意識のなせるわざであると言い聞かせるのだが、いにしえの人々は相手側からの情念が夢に現れるとも言っていた、そんな思いも胸をよぎる。

妻が、最近、朝方に寝言を言っているという・・・

このままではいけない、何とかしなければ・・

ある日、私は湧き上がる衝動に駆られて、妻に行き先も告げずに、再びあの出島に向かって出発した。

梅雨が明けて、夏の日差しが眩しくなったころと記憶している。
(次回に続く)



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